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広島高等裁判所 平成3年(行コ)5号 判決 1992年12月11日

広島県庄原市本町一二三〇番地

控訴人

有限会社伊達デパート

右代表者代表取締役

伊達

右訴訟代理人弁護士

椎木緑司

広島県庄原市三日市町字下の原六六七番地の五

被控訴人

庄原税務署長 浦部善教

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被控訴人

国税不服審判所長 杉山伸顕

右両名指定代理人

稲葉一人

増本正博

岡田克彦

被控訴人庄原税務署長指定代理人

小野員義

戸田哲弘

米森英次

被控訴人国税不服審判所長指定代理人

本田豊

大土井秀樹

右当事者間の法人税額等の更正及び加算税の賦課処分の取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人庄原税務署長が昭和六二年六月二六日付けでした、控訴人の昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日まで及び同年四月一日から昭和六一年三月三一日までの各事業年度の法人税の各更正及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

3  被控訴人庄原税務署長が昭和六二年一〇月一三日付けでした、右各更正及び過少申告加算税の賦課決定に対する控訴人の異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。

4  被控訴人国税不服審判所長が昭和六三年六月九日付けでした、右各更正及び過少申告加算税の賦課決定に対する控訴人の審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。

5  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文同旨

第二当事者の主張及び証拠関係

当事者の主張は、次のとおり敷衍するほか、原判決事実摘示のとおりであり、証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

一  控訴人

本件の役員報酬は、当然損金として計算されるべきである。

1  本件の役員報酬の支給決定及び支給の態様は、次のとおりである。

(一) 昭和五九年六月二五日及び昭和六〇年五月三一日にそれぞれ開催された定時社員総会において、原判決添付別表1のとおり役員報酬の限度額が決議され、具体的実施は実情に即応して取締役の決議によることを委ねられた。

(二) 昭和五九年一二月三一日及び昭和六〇年一二月三一日にそれぞれ開催された取締役協議会において、具体的に原判決添付別表2のとおり翌年一月から取締役の報酬月額を増額改定することを決議した。

(三) ところが、実際の支給をするには資金繰りが十分ではなかったため、資金繰りのよくなる四月、五月に支給し、それまで未払給与として財政を健全化することとした。

(四) その結果、昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までと同年四月一日から昭和六一年三月三一日までと同年四月一日から昭和六一年三月三一日までの各事業年度末において、原判決添付別表3のとおり役員報酬額改定金額を一括計上し、原判決添付別表4のとおり支給した。

2  控訴人は、ジーンズ専門小売店で従業員五〇名ほどの小規模な同族会社であり、事務員も二、三名に過ぎない。

取締役は、常に会社に出勤して業務に従事する等使用人的性格を有し、毎月支給される役員報酬(実質は賃金に相当する。)をもって生活費とし、一般の社会給与や物価の上昇等によって当然その増額を必要とする立場にある。本件の役員報酬は、利益の配分性をもつものではなく、労働の対価として生活費を支給する給与性(賃金性)をもつものである。

本件の役員報酬は、本来、増額決定後毎月従前の給与報酬とともに支給すべきものであったが、控訴人の取扱商品の特殊性から売上に季節的な波があり、それによって収益にも大きな変動が生ずるため、経営の健全化に留意し、赤字月間の時は未払報酬(給与)とし、これを黒字月間に支払わざるを得なかった。

このような処理は、控訴人会社の規模や特殊性からやむを得なかったものであり、かかる処理は係争年度から急に始めたものではなく、従前も必然的に実施され当然とされていた恒常的処理であり、臨時的、一時的なものではない。

したがって、四月、五月以降の役員報酬は、この増加額を従前の報酬額に加えた額を毎月恒常的に月間報酬(給与、賃金)として実際に支給している。

控訴人の社員総会や取締役会の実施は、控訴人が小規模な同族会社であり、厳格な形式はとられていないが、法の要求する手続きは踏んでいる。

3  以上のとおり、本件役員報酬は、労働対価性をもち、利益配分的性格を有するものではないから、全面的に報酬(賃金)性をもつものである。

また、役員報酬と役員賞与とを臨時的給与であるか否かで区別するとしても、当該給与の趣旨、形態を他に支給されている定期的な給与と比べて経常性のない例外的なものであるか否かによって判断されるべきであり、本件の役員報酬は、経営の健全性からみた未払給与の支給であり、その金額も既払の給与(役員報酬)に比べて比較的割合は小さいものであり、その後の支給も継続されていて経常性があり、例外的なものではなく、臨時的な給与ではない。

二  被控訴人

控訴人の主張は争う。

役員報酬と役員賞与とは、専ら臨時的な給与であるか否か、という給与の支給形態ないし外形を基準として判断すべきである。

理由

第一異議申立て棄却決定の取消し請求について

被控訴人庄原税務署長が昭和六二年一〇月一三日付けでした控訴人の異議申立てを棄却する旨の決定の取消しを求める訴えが、不適法であり、却下すべきであることは、原判決八枚目裏五行目から同九枚目裏六行目に説示のとおりである。

第二更正及び過少申告加算税の賦課決定の取消し請求について

一  事実関係

当事者間に争いがない事実に、本件証拠(甲第一ないし第四号証の各一、二、第六号証、第一〇号証、第一一号証の一、二、乙第八ないし第一四号証、第一五号証の一ないし六、原審証人実久絹子の証言、原審における控訴人代表者の結果)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  控訴人は、昭和三五年五月一〇日伊達の父親により設立された、衣料品の販売等を目的とする有限会社である。伊達は、昭和四八年から代表取締役であり、伊達敏子は、昭和四六年から、伊達教惠は、昭和四八年から、石丸慶子は、昭和六〇年八月から、それぞれ控訴人の取締役である。伊達敏子は伊達の母親、伊達教惠はの妻、石丸慶子はの妹という関係にあり、控訴人はいわゆる同族会社である。

控訴人は、本店において衣料品の総合販売を行うとともに、各地に一四のジーンズ専門店舗をもち、従業員は役五〇名程度であった。

伊達敏子、伊達教惠及び石丸慶子は、本店で販売の業務に従事した。

2  控訴人の役員報酬の支払い状況は、次のとおりである。

なお、控訴人では、役員に対して賞与名目の給与を支払ってはいない。

(一) 昭和五〇年度(控訴人の事業年度は、四月一日から翌年三月三一日までである。)

伊達  月額七〇万円

ただし、昭和五一年一月から八五万円に増額した。

伊達敏子 月額六五万円

ただし、昭和五一年一月から八〇万円に増額した。

伊達教惠 月額五五万円

ただし、昭和五一年一月から七〇万円に増額した。

(二) 昭和五三年度

伊達  月額五五万円

ただし、昭和五三年一二月から六五万円に増額した。

伊達敏子 月額五〇万円

ただし、昭和五三年一二月から六〇万円に増額した。

伊達教惠 月額四〇万円

ただし、昭和五三年一二月から五〇万円に増額した。

(三) 昭和五五年度

伊達  月額七〇万円

ただし、昭和五五年一一月以降支払いがない。

伊達敏子 月額七〇万円

伊達教惠 月額七〇万円

(四) 昭和五六年度

伊達  月額七〇万円

ただし、昭和五六年七月から六五万円に減額した。

伊達敏子 月額七〇万円

ただし、昭和五六年七月から六〇万円に減額した。

伊達教惠 月額七〇万円

ただし、昭和五六年七月から五五万円に減額した。

(五) 昭和五七年度

伊達  月額六五万円

伊達敏子 月額六〇万円

伊達教惠 月額五五万円

(六) 昭和五八年度

伊達  月額六五万円

伊達敏子 月額六〇万円

伊達教惠 月額五五万円

(右の年度途中の報酬の増額あるいは減額が遡って実施されたものか否かについては、証拠上明らかでない。)

3  昭和五九年度の役員報酬の支払い状況は、次のとおりである。

(一) 控訴人は、役員報酬として、昭和五九年四月から昭和六〇年三月までの間、伊達に対して月額六五万円(ただし、昭和五九年一二月から七〇万円に増額した。)を、伊達敏子に対して月額六〇万円(ただし、昭和五九年一二月から六五万円に増額した。)を、伊達教惠に対して月額五五万円(ただし、昭和五九年一二月から六五万円に増額した。)をそれぞれ支払った。

(二) 伊達は、昭和六〇年五月、控訴人の昭和五九年度の収支決算をみて利益が出ることを確認して、取締役の報酬を伊達について月額九〇万円に、伊達敏子について月額七五万円に、伊達教惠についても月額七五万円に増額し、右支払いを同年一月まで遡らせることにした。

(三) 伊達が右のように役員報酬の増額を決めたのは、控訴人の利益があがり、役員報酬を増額しても控訴人の経営ができると判断し、他の企業の役員報酬との均衡や役員報酬を増額して控訴人の利益を縮小し節税を図ることを考慮したためである。

(四) 控訴人は、昭和六〇年五月二五日、増額した五月分の各役員報酬を支払うとともに、遡って増額した役員報酬を支払った。昭和五九年度分の各役員報酬の増額分は、合計一二〇万円であった(内訳は、伊達について六〇万円、伊達敏子について三〇万円、伊達教惠について三〇万円である。)。

右一二〇万円は、昭和六〇年五月一六日に作成された昭和五九年度の決算報告書(乙第一三号証)に一般管理費として計上された(同年四月二二日に作成された昭和五九年度の決算報告書(乙第一四号証)には右増額分一二〇万円は計上されていない。)。

(五) なお、控訴人の昭和五九年度の売上合計は、約一〇億一一〇四万円であり、月平均八四二五万円となる。昭和六〇年一月の売上は約八〇四八万円であって、平均を若干下回るが、月別では六番目の売上高に当たる。昭和六〇年二月の売上高は、約五八七四万円であり、月別では最低の売上高であるが、二月は例年売上高が低くなる。昭和六〇年三月の売上高は、約一億〇九四三万円であり、月別では二番目の売上高である。

4  昭和六〇年度の役員報酬の支払い状況は、次のとおりである。

(一) 控訴人は、昭和六〇年四月から昭和六一年三月までの間、役員報酬として、伊達に対して月額九〇万円を、伊達敏子に対し月額七五万円を、伊達教惠に対してついて月額七五万円を、石丸慶子に対して月額六〇万円(ただし、昭和六〇年八月から)を支払った。

(二) 伊達は、昭和六一年四月、控訴人の昭和六〇年度の収支決算をみて利益の出たことを確認の上、取締役の報酬を伊達について月額一二〇万円に、伊達敏子について月額一〇〇万円に、伊達教惠について月額一〇〇万円に、石丸慶子について月額八〇万円に増額することを決め、右支払いを昭和六一年一月まで遡らせることにした。

(三) 伊達が右のように役員報酬を増額することを決めたのは、昭和五九年度の役員報酬額と同じ理由からである。

(四) 控訴人は、昭和六一年四月二五日、増額した四月分の各役員の報酬を支払うとともに、遡って増額した役員報酬の差額を支払った。昭和六〇年度の各役員報酬の増額分は、合計三〇〇万円であった(内訳は、伊達について九〇万円、伊達敏子について七五万円、伊達教惠について七五万円、石丸慶子について六〇万円である。)。右増額分は、昭和六〇年度の収支決算において計上処理された。

(五) なお、控訴人の昭和六〇年度の売上合計は、約一一億一七四〇万円であり、月平均約九三一一万円となる。昭和六一年一月の売上は約八九三〇万円であり、月平均を若干下回るが、月別では五番目の売上高に当たる。昭和六二年二月の売上高は約六九〇二万円であり、月別では最低の売上高になる。昭和六一年三月の売上高は約一億二二〇〇万円であり、二番目の売上高になる。

5  控訴人は、昭和五九年五月二五日及び昭和六〇年五月三一日に開催された定時社員総会において役員報酬の限度額が決定され、具体的実施は取締役協議会の決議によることを委ねられ、昭和五九年一二月三一日の取締役協議会において具体的な役員報酬の増額改定が決議された旨主張するが、右事実は認められない。

すなわち、控訴人は、社員総会議事録(甲第八、九号証)を提出しているが、伊達は、法人税調査の段階で、調査官に示した議事録の綴りに役員報酬の増額改定の記載が見当たらず、社員総会を開催したか否かの記憶ははっきりしない旨供述しているところであるし、現実に昭和五九年度中及び昭和六〇年度中に作成された帳簿あるいは伝票類に役員報酬に未払がある旨の記載はされた様子はなく、控訴人の事務員である証人実久絹子も昭和五九年度中及び昭和六〇年度中に役員報酬の増額の指示があったか否かあいまいな証言をしていることに照らせば、右社員総会議事録の記載のとおりの決定があったと認めることはできないし、また、昭和五九年一二月三一日及び昭和六〇年一二月三一日に具体的な役員報酬の増額が決議されたと認めることもできない。

二  本件更正及び過少申告加算税の賦課決定の取消し請求の争点は、控訴人が昭和五九年度及び昭和六〇年度において遡って支給した前記認定の役員報酬の増額分が法人税法所定の役員報酬に該当するか、役員賞与に該当するかにある。

1  一般に、役員報酬は、取締役の職務遂行の対価として支払われるもので、その支払いは利益の有無に関係なく会社の経費からなされ、他方、役員賞与は、取締役が企業の利益をあげた特別の功労に報いるため、営業年度の利益から分与されるものである、とされ、法人税法上も、原則として、役員報酬は法人所得の計算上損金の額に算入することができ(同法三四条一項)、役員賞与は損金の額に算入できない(同法三五条一項)、とされている。

しかし、業務執行の対価であるか否か、利益処分であるか否かを判断することは容易でなく、また利益処分とすべきものを安易に報酬化することによって課税を免れることも考えられるため、昭和四〇年法律第三四号で施行された法人税法は、その三五条四項の規定から、役員報酬と役員賞与とを専ら「臨時的な給与」であるか否かという給与の支給形態ないし外形を基準として報酬と賞与とに区別していると解されるのであり、職務遂行の対価性等の実質を区別の基準にする必要はないと解される。

2  これを本件についてみるに、控訴人は、昭和六〇年五月ころ、昭和五九年度決算の利益をみて、うち六〇万円を代表取締役伊達に、三〇万円を取締役伊達敏子に、三〇万円を取締役伊達教惠にそれぞれ昭和六〇年一月から同年三月までの報酬増額分として一括して支払い、また、昭和六一年四月、昭和六〇年度決算の利益をみて、うち九〇万円を代表取締役伊達に、七五万円を取締役伊達敏子に、七五万円を取締役伊達教惠に、六〇万円を取締役石丸慶子にそれぞれ昭和六一年一月から同年三月までの報酬増額分として一括して支払ったのであり(控訴人は、昭和五九年及び昭和六〇年の各一二月三一日に開催された取締役協議会において翌年一月からの取締役の報酬の増額を決定したが、会社の資金繰りを考えて未払給与とした旨主張するが、右一月から三月までの間に未払報酬を計上した帳簿処理をした様子がなく、右一二月三一日に役員報酬の増額が決定されたと認められないことは前記説示のとおりであり、また、前記認定の控訴人の売上状況等に照らし、控訴人において当時毎月の増額報酬額の支払いができないような資金繰りであったとも認め難い。)、右増額分の報酬として各取締役に支払われた給与は、臨時的な給与と認めるのが相当であり、法人税法所定の役員賞与に当たると解される。増額した取締役報酬がその後支払い続けられていることは、右認定・説示を何ら左右するものではないし、従前年度途中に取締役報酬を増額したことがあったこと(ただし、遡って支払いをしたか否かは明らかでない。)も、右認定・説示を妨げるものではない。

3  仮に、労務対価性や利益配分性を考慮するとしても、昭和五九年度及び昭和六〇年度に役員報酬の増額分として支払われた給与が実質的に損金として処理できる役員報酬である、と認めることはできない。

すなわち、控訴人の取扱いに従えば、昭和五九年一二月に取締役の報酬が増額され、更に翌月である昭和六〇年一月に取締役の報酬が増額され、一年後の昭和六一年一月にも再度取締役の報酬が増額されていることになるが、これにともない取締役の職務内容が変化したことをうかがわせる様子はなく、増額分について職務遂行との対価があるとは直ちに認め難いし、また、右報酬の増額分は、各事業年度の利益を確認の上、節税を考えて損金として計上できる役員報酬の未払分として支払われたものと認められるのであるから、実質的には隠れた利益処分に当たると認めるのが相当である。

したがって、実質的に検討しても、役員報酬と認めることはできない。

三  控訴人が昭和五九年度及び昭和六〇年度において役員報酬として支払った増額分の給与を役員賞与として控訴人の所得を計算すること原判決添付別紙5のとおりとなることは、控訴人も明らかに争わないところであり、右所得を前提に被控訴人庄原税務署長がなした昭和五九年度及び昭和六〇年度の控訴人の法人税の各更正及び過少申告加算税の賦課決定は、適法と認められる。

第三審査請求の棄却裁決の取消し請求について

被控訴人国税不服審判所長が昭和六三年六月九日付けでした控訴人の審査請求を棄却する旨の裁決の取消しを求める請求が、理由のないことは、原判決一二枚目裏一〇行目から同一三枚目表七行目までのとおりである。

第四結論

以上の次第で、控訴人の本訴請求は、異議申立てを棄却する旨の決定の取消しを求める部分を不適法として却下し、その余の請求を失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠清 裁判官 小林正明 裁判官 渡邉了造)

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